不整脈
はじめに
不整脈は一般の方と医療者では若干ニュアンスや捉え方が異なることが多いです。
‘ドキドキする’, ‘バクバクする’, ‘動悸があります’といって循環器内科の外来に受診されても、詳しく調べると不整脈ではない原因であることもしばしば遭遇します。
不整脈と一言で言っても種類は沢山あり、様子をみていても大丈夫なものから命に関わるものまで様々です。
ここでは代表的な不整脈をピックアップし、わかりやすく実際の心電図とともに解説していきます。
健常な心電図 ‘小さい山と大きい山は1セット
心臓という筋肉の塊には電気を伝える、いわば導線のようなものが張り巡らされており、‘秩序をもって規則正しく興奮しては冷め’を繰り返します。この電気的な興奮を検出し表現したものが心電図です。
不整脈を心電図で正確に診断するのは内科医であっても困ることが多く、苦手とする医師が多い分野でもあります。
不整脈を理解するためにはまずは正常な心電図を理解することが非常に重要です。
(正常な12誘導心電図:↑は小さい山【心房波】, ↓は大きい山【心室波】を表します。)
上記はとても元気な方の正常な12誘導心電図です。
心電図は皆さん誰しもが生まれてから一度は受けたことがあると思いますが、吸盤のような電極を両手足や胸の周りに沢山つけられたのを覚えているでしょうか?
心臓の一度の興奮も色んな角度(名前の通り12か所)から波形をとらえることで情報はより詳細に、より正確に判断することができます。
そのため心電図をみると上記のように沢山の波形が目に入り、思考を停止したくなると思います。
最も一般的に心臓の興奮を表す誘導はⅡ誘導であるため、一般の方はⅡ誘導のみでも注目して今後は読み進めていただけたらと思います。
心電図に視線をもどしていただくと、矢印で示しているように‘小さい山’と‘大きい山’の1セットで構成され、規則正しく繰り返されていることがわかると思います。
[小さい山] = 心臓の上の部屋 (心房)の興奮
[大きい山] = 心臓の下の部屋 (心室)の興奮を表しています。
心臓は上の心房から興奮が始まり、実際に血液をポンプして全身に送る心室(下側)に伝わっていきます。
この‘小さい山’と‘大きい山’の1セットは言い換えれば心臓が興奮してから実際に1回ポンプすることであり、脈の回数と一致するのです。(約1秒に1回の脈‘ドクン’を感じると思います。これが心臓の一度の興奮であり収縮です。)
不整脈の基本的な考え方
不整脈はこのキーワードである‘小さい山と大きい山は1セット’が崩れることを言います。
不整脈は2つの要素【回数】と【場所】で区別して整理すると理解しやすいです。
- ①回数
- 脈の回数は早いのか?遅いのか?
- ②場所
- 震源地(不整脈の原因)は上の部屋(=心房)?下の部屋(=心室)?
だいぶざっくりではありますが不整脈はこの2×2の4パターンで大別されます。
(例:‘脈が早くて上の部屋から出ている’ ➢ 頻脈性心房性不整脈)
正常な心電図を目に焼き付けていただいたら、ここからは実際に不整脈をご覧いただきたいと思います。
早くて心房側が原因の不整脈 (頻脈性心房性不整脈)
(心房細動の12誘導心電図:↓で示しているように小さい山である心房波はギザギザになり大きい山と大きい山の間隔も不規則となります。)
これは早くて(稀に遅くなるタイプの方もいますが)、心房が原因の代表的な不整脈である心房細動の波形です。
高齢の方の10-20人に1人ほどは有しているといわれており、名前のごとく心房が細動(震えて)し、‘小さい山と大きい山は1セット’が崩れてしまう病態です。
興奮の始まりであり心房が細かく振動してしまうため、下で待ち受けている心室も不規則に高頻度で興奮してしまいます。大きい山と大きい山の間が不規則ということは心臓の興奮・収縮が不規則となることであり、動悸や胸部不快感を自覚することがあります。
この不整脈の悪い面は大きく2つあり、1つは心不全の原因になることです。心房が振動することで年々心房は大きくなり、逆流性の弁膜症をもたらします。また、常に心室も緊張状態になるため、ストレスを溜め込んでしまうのです。
もう1つは血液の塊(血栓)が作られ、色んな臓器に詰まって(塞栓)しまう可能性が高まります。左房が細かく振動することで左房内の血流が淀み、プルプルのゼリーの様な血栓が容易に作られてしまいます。その血栓が脳に飛べば脳梗塞へ、冠動脈に飛べば心筋梗塞になり命に関わります。有名な国民的野球スターの方もこの不整脈が原因で大きな脳梗塞となり、今も重い後遺症と戦っています。
この病気の怖いところは動悸などを自覚せず、上記のような大きな病気になり初めて発覚することも珍しくありません。定期的な健診や少しでも胸部違和感を覚えたら医療機関で12誘導心電図を取ることをお勧めいたします。
治療としては後述にまとめます。
遅くて心房側が原因の不整脈 (徐脈性不整脈)
脈が遅いことを医学用語では‘徐脈’と表現します。(徐行運転を想像してください。)
本来は心房にある洞結節という場所から興奮が始まり、心房-心室間(房室)を伝わって広がっていきます。洞結節は興奮を0から1にする、言わば自身のペースメーカーのようなイメージです。
私たちは自分の洞結節 (ペースメーカー)があることで、寝ている時も含めて脈を生み出してもらい生活できています。この洞結節の機能が低下すると極端に脈が遅くなり、めまいや最悪の場合は失神を引き起こすことがあります。
洞不全症候群
洞機能の不調で脈の回数が減少/停止します。
上の心電図では小さい山が出現しないことで大きい山が現れず(=心臓がポンプしない)、心臓が5秒以上も停止した状態となっています。脳に血流が3秒以上供給されないと失神してしまう可能性が高まります。
房室ブロック
房室(心房と心室をつなぐ導線)が切れることで、‘小さい山と大きい山の1セット’が崩れ小さい山と大きい山の距離が延長してしまい結果的に徐脈になります。
こちらの心電図は完全房室ブロックの所見であり、小さい山(↑)と大きい山(↓)の1対1の法則が崩れ、それぞれが独立して遅いリズムで興奮しています。
心房と心室の間にある導線が完全に切れてしまっているため脈が30-40回/分と一般の方の半分以下となりめまいや失神を引き起こします。長時間我慢していても心臓が耐え切れず心不全となり緊急入院してしまうケースもあります
。
心室側が原因の不整脈 (心室性不整脈)
心臓がポンプする心室側に不整脈の原因がある場合は、深刻な不整脈である可能性が高いです。
前述した心房が振動する心房細動は命に直結はしないのに対して心室が振動する心室細動は死をもたらす一番怖い不整脈として知られています。
(心室細動の心電図波形:大きい山である心室波が無秩序に興奮します。)
心室が振動するということは心臓がポンプできなくなる = 全身に血液が回らなくなる =‘心停止’を意味します。若いアスリートや未成年が運動中に突然なくなる原因の1つと考えられており、この不整脈を1秒でも早く停めるためには即座の電気ショック(AED)によるリセットが必要になります。
心室細動の一歩手前の病態として心室頻拍という不整脈があり、失神して発覚する方もいれば酷い動悸や息苦しさで循環器内科外来を受診する方もいます。
(心室頻拍の12誘導心電図:大きい山が高頻度に規則正しく興奮しています。長時間持続すると心室細動に移行する可能性や心不全に至る可能性がある危険な状態です。)
我々循環器内科医はこのような命に関わる不整脈を見逃さないことがとても重要であり、常に念頭に置きながら診療を行っています。
治療方法
不整脈に対する治療法は大きく3つの柱で成り立っています。
抗不整脈薬を用いて、脈の回数やリズムを整えます。
副作用が強い薬も多く使用法を間違えると過度な徐脈や中毒になることもあるため、循環器専門医による慎重な種類・用量の調整が必須になります。
心房細動などの心房性不整脈(その他, 心房粗動や上室性発作性頻拍など)は自身の洞結節以外から異常な興奮(震源地)が出現・持続することが原因です。
血管内から心臓内にカテーテルを用いてアクセスし、原因の震源地の周りを焼却することで根治する治療を‘カテーテルアブレーション’といいます。
年齢や心房のサイズ(持続期間)などにもよりますが、比較的高い根治率を誇り循環器のガイドラインでも症状のあるこれらの不整脈にはカテーテルアブレーションが第一に提唱されています。
自身のペースメーカー(洞機能)の不具合による徐脈性不整脈に対しては、外からペースメーカーを体内に植え込みしなければ脈の回数が担保できません。
怖い不整脈である心室頻拍や心室細動を起こしたことがある方は次回同様の不整脈が出現した際には電気ショックを必要とします。ずっとAEDを身に着けておくことは不可能であるため、電気ショック機能付きのペースメーカー(ICD)を体内に植え込みます。
これらの機械(デバイス)は脈が抜け落ちた時や怖い不整脈が出現した時に作動するよう設計されていますが、設定の仕方や調整には高度な知識と経験を要します。
さいごに
代表的な不整脈を何個か題材に説明してきましたが、他にも名前のついているような不整脈は何十種類とあります。
発作性の不整脈は症状がある時(不整脈が顔を出している時)に心電図を取らないと診断が困難なケースがあります。
携帯心電計や24時間装着心電図(Holter心電図)を適切に用いて診断し、治療に結び付けることが重要です。
文責:茂澤メディカルクリニック 循環器内科 茂澤 幸右